新型コロナウィルス、経済不況、各国の分断政策、五輪の開催、森友問題疑惑など、これまでになかった規模で広がる社会不安に、私たちはどう向き合っていけばいいのかを考えさせられる日々が続く。

こんな状況になればなるほど、音楽や芸術、教育といった内的なものを高める習慣を持っているかどうかが試されると感じる。
持っていない人は、根拠なき楽観論で騒いだり、他者を攻撃したり、パニックに陥ったり、心を閉ざして少しずつ病んでいったりする。
各地で起きているアジア人への差別行為やあからさまな攻撃などはその最たるものだろう。

そんな世相に疲れた気持ちを奮い立たせたいと見つけたのが、1971年アメリカでの実話をもとに描かれた映画「ベスト・オブ・エネミーズ ~価値ある闘い~」だ。

2019年に全米で公開されたものの、日本での劇場公開はなかった作品だ。
監督/脚本は本作がデビュー作のロビン・ビセル。
主演は「ドリーム」のタラジ・P ・ヘンソンと「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェル。

サム・ロックウェルは白人の嫌なヤツをやらせたらピカイチ。

わりと信頼している映画評論サイト Rottentomatoではそれほど評価が高くないのだが、ふたりとも個性があり演技のうまい好きな俳優で、期待をそそる。

物語の舞台はノースカロライナ州ダーラムという米南東部の田舎町。
人種隔離政策の是非を問うために、市議会は人種隔離に反対する公民権活動家アン(タラジ)と、狂信的白人至上主義団体「KKK」の幹部C.P.エリス(サム)の二人を議長に住民を巻き込んだ「シャレット」と呼ばれる合議制の会議を開き、意見を闘わせていくさまが描かれる。

アメリカの闇 白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)

人種はもちろん、両極端な思想の二人だが、ふたりとも決して裕福とはいえない暮らしをしているという共通点がある。
果たして、この話し合いはうまくいくのだろうか…というのが見どころだ。

結末はいつもどおり触れないが、最も驚いたことがある。
公民権運動の高まりと同時にKKKの活動も大変に盛んで、恫喝は日常茶飯事、殺人事件や放火なども多数あったと聞くこの時代の、しかも差別が激しい南部で、この「シャレット」という合議制会議がよく開催されたなということだった。

 
これを観て、先日新型コロナウィルスの件で開かれた公聴会で、まさに映画のような素晴らしい質疑で、国民全員の検査を政府機関の専門家に承諾させたケイティポーター下院議員の動画を思い出した。
約6分なのでぜひ観てほしい。

 
いかがですか、コレ。
私は少なくとも圧倒され、そしてすごく痛快だった。
 
アメリカはご存知の方も多いように、世界各地に戦争を仕掛け、多国籍企業による世界支配の中心になっている国だ。人種差別は残念ながら今も根強く残り、もはやその溝を埋めることは夢物語のように感じる。


しかしアメリカはその反面、こうした社会問題が深刻だからこそ、法に則り、あくまでもフェアでオープンな闘いを続けている人達の強さもハンパないし、そしてなによりそれを認める懐の深さがある。
こうした強さと懐の深さがある限り、やっぱり「腐ってもアメリカ」はこれからも続くだろう。

それに比べて「忖度」や「暗黙の了解」で、人の命が奪われるような国家的犯罪が起きても沈黙したまま、市民のあいだでは閉ざされたネット空間だけで、陰口や根本的に間違った自己責任論が蔓延している「どこかの国」の未来は推して知るべしだろう。

このブログで政治的な投稿をするのはなるべく避けたいと思っていたが、昨今の状況をみる限り、そんなことを言っている悠長な事態ではないと感じている。
 
この映画、まずは先入観なしに観てほしい。
結果はどうあれ、この「強さ」と「オープン性」こそ、勝手に怯え、ジメジメと陰口を叩き、それでいて本質を見ずに思考停止してるどこかの国民に必要なものだと思うんだけど。


投稿者プロフィール

柳澤史樹
株式会社 Two Doors 代表社員。
一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザー。
企業研修プログラム「マインドフルカフェ」メンバー。
ライター・編集・プランナーとしても活動中。