父よ、俺は仕事してるぞ。

5年の認知症を患ったすえに黄泉の国へ旅立った父。
今日の深夜でまる二年が経つ。

その父の生前の写真をFacebookで載せたことから繋がった友人Sさんから、昨日突然こんなメッセージが届いた。

「最近父に認知症の症状が出てきたようなんですが、柳澤さんのお父さんの時はどうだったか、聞かせてもらえませんか。
本人も薄々気づいているうえに、世間がこんな状況なので、気持ちが滅入ってしまっているようなんです。
私は今まで死ぬのは当たり前だからいろいろ準備しておこうよ!とか無神経に言ってきた事を本当に謝りたいです。」
と本人もちょっと落ち込んでいるようすだった。

父がきっかけで繋がったSさんが、お父さんの認知症についてこのメッセージを命日の前々日にくれたタイミングに不思議なご縁を感じながら、私は約6年前に始まった父の認知症の症状を思い返してみた。

父・明朗(あきら)。2018年4月5日逝去。享年84歳。
最期までグループホーム「つくしの家」で心優しいスタッフのみなさんにケアされ、幸せに旅立った。
戸惑いと恐怖とのたたかい

 
当時は存命で同居していた母と、隣に住む長兄が父の認知症に気づいてから、進行はとても早かった。

最初は親しい友人を偲ぶ会のエクセルでの名簿管理が遅々として進まないところからだった。
その後、打ち合わせに出かけた都内から、帰り方がわからなくなって電話をしてきたり、さらにはありもしない原稿のことで、とっくに退職したにも関わらず、在籍当時の同僚などに頻繁に電話をしたりするようになった。

そしてその間違いを指摘すると、頑なに否定し、怒るようになった。
今にして思えば、父は自らの間違いに戸惑い、さぞ恐怖を感じていただろうと、Sさんのお父さんの話を聞いて感じる。

認知症は残酷な病気

そんな話をしつつ、私はケアをするSさんご家族を思った。

本人は進行する病状と、それに対する恐怖や怒りを抑えきれない場合がある。家族は家族で、ご本人が元気だった人であればあるほど、病状の進行が悲しく、その間違いや物忘れを責めてしまいがちになる。
それがさらに家族に自責の念として多大なストレスになるのだ。

こうした症状には決して否定せず傾聴するのがいいとされているが、実際にそうした状況でやさしくなりきることはとても困難だ。
認知症とは、かくも残酷な病気なのだ。

しかしそんな認知症には、自分史がとても有効なことをご存知だろうか。
脳科学者の茂木健一郎氏が「過去を思い出す作業は、新しいことを考えるのと同じ脳の働きだ」と発言しているとおり、脳の活性化に自分史が有効なことは、すでに識者のあいだでは常識になっている。

私はそれを思い出し「お父さんとご家族で自分史にチャレンジされてはいかがでしょうか」と伝え、2つの自分史ツールを紹介させていただいた。

本人と家族をつなぐ自分史

2018年に(公)認知症予防財団監修のもと毎日新聞社から発刊された「思い出ノート」は、「あなたの名前は?」からはじまる100の問いが書かれており、それに答えていくだけで簡易自分史ができあがるというもの。

この冊子を使った自治体の自分史講座は、キャンセル待ちが出るほどの盛況だという。
毎日新聞の販売店ほか下記で購入でき、価格もリーズナブルだ。

◎思い出ノート
A4版サイズ、全64ページ。価格は500円(送料別)。
問い合わせは認知症予防財団(03-316-4409)へ。
ご注文は近所の毎日新聞販売店か、「住所」「氏名」「必要部数」を記入し 03-3216-4409へFAXか、
電子メールで同財団(fpd@mainichi.co.jp)まで。
 

 
またもう1冊、自分史活用アドバイザー仲間である高橋佳子さんが、ご自身の親御さんの介護経験を通じて制作した「親ブック」もすばらしい。

これは「くらし」「自分史」「旅行」「食」「カルチャー」「ワードローブ」というカテゴリーに分かれており、親御さんの思い出はじめ、好きな食べ物や足のサイズ、お気に入りの服や靴などを書き込んで作り上げる「自分史データベース」だ。

高橋さんがこだわりをもって作ったかわいらしいグラフィックは、女性を中心に大人気。
見ているだけで気持ちが楽しくなるし、取り組んでみたくなる。
 


親ブック
親ブック

21×15.5cm 全64ページ
ケアポット株式会社
1,430円(税込)販売は Amazon.comのみ(上記リンクより)

 
初期の認知症の場合、現在の時間感覚がおかしくなることが多いが、「子ども帰り」と言われる現象でも知られているとおり、過去の記憶はハッキリ覚えているところがある。私の父も実際そうだった。

しかし、これらのツールを使って本人が過去を思い出せれば、それは自信とともに恐怖や不安を払拭でき、精神が安定する。
家族は家族で、親が傷つくかもしれない「認知症の治療」ではなく「お父さん(お母さん)の自分史を聞かせてほしい」という理由なら提案しやすいだろう。
そして何よりも大事なことは、それができあがれば、それは家族にとってかけがえのない宝ものになるということだ。

かけがえのない時間のために

このアドバイスを聞いたSさんはとても喜んでくれ、親ブックの購入を即決した。

そして「これからは田舎に移住しようと考えていたのですが、家族と寄り添って生活できる方法を考えます。」といい、さらに「親が弱ってきたり、コロナで自分も家族も死ぬのが身近に感じられてきてはじめて、日常がどれだけ大事だったかに気がつきました。」と話してくれた。


奇しくも前回のブログで書いたNさんと同様、現在は新型コロナウィルスで多くの人の目の前に、死が身近に感じられる状況だ。
切なく苦しいけれど、それが同時に自分の命や、愛する人達のありがたさに気づかせてくれていることも事実である。

父が元気なうちに、私がそのような思いに気づけていたら、そしてこれらのツールを知っていたら、もっと父のことを聞け、語り合えただろうと思う。
まさに「後悔先に立たず」であり「親孝行、したいときには親はなし」そのものである。

しかし、Sさんのご家族が互いに愛を紡ぐお手伝いができたことが嬉しいし、この報告を、父も喜んでくれることだろう。

Sさん、ありがとうございます。
ご家族とかけがえのない時間を過ごしてくださいね。

投稿者プロフィール

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柳澤史樹
株式会社 Two Doors 代表社員。
一般社団法人 自分史活用推進協議会認定 自分史活用アドバイザー。
企業研修プログラム「マインドフルカフェ」メンバー。
ライター・編集・プランナーとしても活動中。

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6 Comments

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    上田裕子

    ありがとうございます。つくしの家には2回お邪魔しました。あと1回は、ご自宅に一時帰宅の時でした。私たちと話をする時はとてもクリアでアベ 政権批判を昔通りの鋭い分析をされました。ご友人の偲ぶ会の準備でもきちんと司会をされていて、帰り道がわからなくなったということは後で知りました。偲ぶ会の司会も見事に務められました。そのご友人が認知症になり、そのフォローもされましたので、それだけに、ご本人が自分も認知症だと知って、とても辛かったことと思います。最後までぶれずに生き抜かれたと思います。「そうで、どうした?その事実で何を伝えるのか?」と柳沢さんの声が今も耳の底から聞こえてきます。

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      柳澤史樹

      上田先生 あたたかいコメントありがとうございます。本当に先生のようなすばらしいお友達にめぐまれ、駆け抜けた一生で、つくづく幸せな人だなと思っています。
      自分史を通じて、社会になにかしらの貢献ができればと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。

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    清水 則雄

    もう2年が経つのですね、柳沢さんのお父様への思いがこもった内容、読ませていただいて胸が熱くなりました。私も認知症が他人事では無い年齢になりました。史樹さんの書かれたこと参考にしたいと思います。
    そして今まだ出来るうちに自分のやるべきことに精一杯とり組んでいきたいと思います。お伝えくださいましてありがとうございました。

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      柳澤史樹

      清水先生 コメントありがとうございます。ぞうれっしゃとの出会いが、父の後年を本当に価値あるものにしてくれて、心より感謝しております。
      引き継がれていく思いを伝えていくお手伝いが少しでもできればと存じます。引き続きよろしくお願いいたします。

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    早川真

    柳澤さん、いい話をありがとう。

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